1解剖学生理学とは
1 解剖学と生理学
(1)解剖学とは
解剖学は英語でAnatomyといいます。Anatomyの語源であるギリシャ語の本来の意味は「切り刻み、部分に分ける」ことです。
解剖学とは、人体を構造的にみたとき、それぞれの構成物がどのような仕組みを持って構成されているかを調べる学問です。
(2)生理学とは
生理学は英語でPhysiologyといいます。人体がいかにして生命活動をしているかを機能面で調べる学問です。 例えば胃腸の働きとして、食べ物をどのようにして分解・消化・吸収し、栄養素を運び、生命活動にどのように関わっているのか、生体の機能(各器官の働き)を学びます。
2 人体の区分と名称
(1)人体の区分
人体を外側からみると、頭、頸、体幹、四肢の4つに大別できます。四肢は上肢、下肢に分かれます。
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- 体 幹
体幹は胸、腹、骨盤に分かれ、胸の後部を背、腹の後部を腰といいます。 - 上 肢
上肢は上肢帯、上腕、前腕、手に分かれます。上肢帯は肩胛骨と鎖骨からなります。手には5本の指があり、母指(第1指)、示指(第2指)、中指(第3指)、薬指(第4指)、小指(第5指)からなっています。 - 下 肢
下肢は下肢帯、大腿、下腿、足に分かれます。下肢帯は脚と体幹をつなぐ部分で両側に大きな1対の寬骨からなります。足にも手と同様に5本の指があり、第1指、第2指、第3指、第4指、第5指からなっています。 - 体 腔
人体の内側には体腔があって、内臓器官を収め保護しています。頭部には頭蓋腔があり、脳が収められています。胸部には胸腔があり、肺、心臓、気管支、食道が収められています。腹部には腹腔があり、胃、小腸、大腸、肝臓、脾臓が収められています。骨盤には骨盤腔があり、膀胱、直腸、子宮、卵管、卵巣、前立腺が収められています。
- 体 幹
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(2)各部の名称
人体の大まかな区分と名称は図1の通りです。
3 人体の構成
(1)人体の構成
人体は1つの構造物で、生命活動を維持するために多数の種類の細胞から成り立っています。同じ種類の細胞が集まると組織ができます。すなわち上皮細胞が集まると上皮組織、筋細胞が集まると筋組織、神経細胞が集まると神経組織を作ります。
いくつかの組織が集まり、ある一定の形態・機能をそなえたものを器官といいます。胃、腸、肝臓、心臓、肺、目、耳などはそれぞれ一つの器官で、それぞれ独立した働きをしています。
いくつかの器官がつながり協同して働くものを器官系といいます。
主な器官系には、
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- 骨格系
- 筋系
- 消化器系
- 呼吸器系
- 循環器系
- 泌尿器系
- 生殖器系
- 内分泌系
- 神経系
- 感覚器系
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などがあります。
これらの各系統はは互いに協力して働きます。たとえば消化器系において消化・吸収された栄養素は、循環器系を流れる血液によって全身の細胞に運ばれ、体の成分となり、そこで呼吸器系によって取り入れられたO2(酸素)と酸化を行い、エネルギーを作ります。したがって人体は、細胞→組織→器官→器官系→固体という一連の仕組みで基本的に構成されています。
(2)器官系
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- 骨格系は身体の支柱、内臓の保護、造血および筋とともに運動を行います。
- 筋系は身体の運動、体温の発生、血液循環を助けます。
- 消化器系は食物を消化、吸収します。
- 呼吸器系は酸素を体内に取り入れ、炭酸ガスを体外に排出します。
- 循環器系は血液およびリンパの循環を行います。
- 泌尿器系は体内で生じた不要産物を腎臓から体外に排出します。
- 生殖器系は個体の繁殖を行います。
- 内分泌系はホルモンを分泌し、身体の成長、発育および器官の働きを調節します。
- 神経系は受容器の興奮を伝達しm器官の働きを統一し、精神作用を行います。
- 感覚器系は外界の変化および身体内部の刺激を感受し、感覚作用を行います。
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4 細 胞
(1)細胞とは
細胞(cell)とは人体の構成と機能で生命活動を行う最小の単位をなすものです。形や大きさはさまざまで、球形、紡錘形、扁平系、円柱形、立方形、多角形などがあります。
大きさは平均直径が10~30μで(1μ=1/1000mm)、大きいものでは200μの卵細胞があります。
人体には約60兆個の細胞があります。肝臓の細胞は幹細胞として機能し、白血球の細胞は、その役割どおり特殊な働きをします。
細胞は原形質の固まりです。細胞はおよそ3分の2が水分で、およそ3分の1が有機物(タンパク質・脂質・糖質)で1%が無機塩類(ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウム・リン)です。
タンパク質の働きの違いにより、各細胞の性質や形、働きが異なります。タンパク質は各細胞の中にある遺伝子(DNA)によって働きが決められていて、白血球には細菌を溶かすタンパク、筋肉細胞には筋線維の束が縮んだり伸びたりするタンパクがそれぞれ含まれています。これら異なったタンパクは、およそ200種類以上あります。
細胞は原形質といわれるコロイドから成り、原形質膜(細胞膜)と細胞質および核に分かれています。核は通常1個でそのなかに核小体と染色質があり、染色質は細胞分裂の際に糸状の染色体を形成します。ちなみにヒトの染色体は46個です。細胞質中にいろいろな構造物がみられ、これを細胞小器官といい、糸粒体、ゴルジ装置、小胞体、中心小体などがあります。
糸粒体(ミトコンドリア)は物質代謝を支配する酵素を含み、細胞内にエネルギーを供給します。ゴルジ装置は分泌物を生成します。小胞体は物質の吸収、排泄、たん白質の合成などを行います。中心小体は細胞分裂の際、染色体の移動に重要な役割をします。
(2)細胞分裂
細胞分裂(Mitosis)は人体の成長や発育にとってとても重要です。細胞には一定の寿命があるので、新しい細胞によって補充されなければなりません。ですから人体は新しい細胞の増加によって成長し、それはすべて細胞分裂によってなされるのです。
細胞分裂には有糸分裂と無糸分裂があり、人体の大部分の細胞分裂は有糸分裂です。
有糸分裂は、核の内容が一定数の染色体で形成され、縦裂して2分します。中心小体も2分し、両極に移動し縦裂した染色体を引きよせます。細胞体は最後にくびれて、2個の新しい細胞となります。
ヒトの場合、染色体の数は46個で、常染色体が44個(22対)、性染色体が2個(1対)となっています。男はXY、女はXXと表されます。
5 組織
(1)組織
人体の各器官は、主に、上皮組織、結合組織、筋組織、神経組織の4つの組織で構成されています。組織とは同じ種類の細胞の集まりを言います。
それは同じ形と働きをもった同類の細胞と、その間をつなぐ細胞間質の集合したものを含めて言います。
たとえば皮膚の表層は、上皮細胞と呼ばれる細胞が幾重にも重なって上皮組織をつくり、身体を保護します。また横紋筋細胞が集まり骨格筋となり、その収縮によって体の運動を行います。
①上皮組織
上皮組織(epithelial tissue)とは体表をはじめ色々な表面を覆う組織です。上皮細胞が集まったもので、身体の表面(皮膚)、消化管の粘膜、気道の粘膜などの表面にあって、身体の保護、栄養分の吸収、分泌腺による分泌、排泄などの働きをします。
上皮組織はその細胞の形により、扁平上皮、立方上皮、円柱上皮、移行上皮に分かれます。また、その重なりぐあいによっては単層上皮、重層上皮と呼びます。
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- 単層扁平上皮
扁平上皮細胞が1層に並んでいるもので、肺胞上皮、胸膜、腹膜、血管の内面などにあります。 - 重層扁平上皮
扁平上皮細胞が幾重にも重なり合っているもので、刺激の強くあたる場所にあります。皮膚(表皮)、口腔、食道、肛門などの粘膜にあります。 - 単層円柱上皮
円柱上皮細胞が1層に並んでいるもので、胃、腸の粘膜にあって吸収作用をします。 - 移行上皮
膀胱、尿管などの上皮で、重層扁平上皮に似ています。膀胱の収縮時と拡張時とで上皮の形が変わります。 - 線毛円柱上皮
線毛をもつ円柱状の上皮細胞が集まったもので線毛を一定の方向に動かし異物を運ぶ働き(線毛運動)をします。気道、卵管の粘膜にあります。
- 単層扁平上皮
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②分泌腺
身体には多くの分泌腺があります。腺は上皮組織のうち分泌上皮が集まってできたもので、導管(排泄管)の有無により外分泌腺と内分泌腺に分けられます。
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- 外分泌腺
外分泌腺は、分泌物を導管により皮膚の表面や、胃・腸・気管のような中空器官の内面などの外部に分泌します。外分泌腺には汗腺、脂腺、涙腺、乳腺、唾液腺、胃腺、腸腺、肝臓などがあります。 - 内分泌腺
内分泌腺は、導管がなく、その分泌物(ホルモン)を周囲の血液に分泌します。内分泌腺には下垂体、松果体、甲状腺、上皮小体、膵島、副腎、性腺などがあります。
- 外分泌腺
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簡単にまとめると、上皮組織は体表、消化管、気道、卵管、血管などにあります。上皮組織の機能は、体表や器官の保護では保護上皮、栄養分の吸収では吸収上皮、分泌・排泄では腺上皮、感覚作用では感覚上皮、生殖細胞をつくるのは胚上皮です。
外分泌腺は導管により分泌物を外部に分泌し、内分泌腺は導管がなく分泌物(ホルモン)を血液に吸収させます。
③結合組織
結合(支持)組織(Connective tissue)は人体に最も広く分布している組織で、さまざまな細胞が分化して細胞間隙に基質を作ったものです。
基質のなかに線維成分をもつ結合組織、基質に固形物のある軟骨、骨などの支持組織があります。すなわち、皮膚、膜、筋肉、骨、神経など体内に広く分布し組織や器官の隙間を満たし結合する組織で、線推細胞と基質(膠原線維、弾性線維)からなります。
膠原線維からなるものを強靭(密性)結合組織、弾性線維からなるものを疎性結合組織と言います。そのほか、軟骨組織、骨組織、脂肪組織なども結合組織です。
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- 強靭結合組織
強靱結合組織は、腱・靭帯・真皮(密性結合組織)にあり、線維が密で平行しています。 - 疎性結合組織
疎生結合組織は、脂肪組織・皮下組織・粘膜下組織その他全身にあり、線維がまばらな組織で、組織と組織を結合したり隙間を埋めたりします。 - 軟骨組織
軟骨組織は、鼻・耳介・喉頭・気管・気管支・関節面などにあり、さらに次の3種に分けられます。-
- 硝子軟骨
肋軟骨・関節軟骨・喉頭軟骨・気管軟骨など、乳白色で、形を保持しなければならない部位にあります。 - 弾性軟骨
耳介が弾性軟骨で、字のごとく弾力性が強く、外界の刺激を受けやすいところにあります。 - 線維軟骨
椎間円板・恥骨結合軟骨などが線維軟骨で、線維が多く、圧迫や牽引を受けるところに存在します。
- 硝子軟骨
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- 骨組織
骨組織は、歯の次に堅い組織で、骨細胞と基質(リン酸石灰・炭酸石灰など無機物と有機物)からなり骨を形作っています - 脂肪組織
脂肪組織は、脂質を貯えるために特殊化した疎性結合組織です。人体には大量の脂質が蓄積されています。
- 強靭結合組織
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④筋組織
筋組織(Muscle tissure)は、筋肉を作る筋細胞からなる組織で、筋線維が集まっています。 筋細胞は運動のために特殊化された細胞で、収縮性が高いのですが、傷つくと治るのに時間がかかります。
筋線維の内部には太いミオシンフィラメントと細いアクチンフィラメントがあります。このフィラメントが部分的に重なり、明暗の横シマがみられます。そのため横紋筋と呼ばれ、骨格筋組織、平滑筋組織、心筋組織の3つに分けられます。
筋組織は収縮して身体の運動、心臓の運動、消化管(食道・胃・腸)の運動、血管の運動などを行います。
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- 骨格筋組織
骨格筋組織は、骨格筋線維が集まった筋で、全身の骨格に付着して関節運動を行います。この筋には明暗の横しまが(横紋筋)があり横紋筋と呼ばれます。また、この筋は脳脊髄神経の支配により意志に従って動くので随意筋とも呼ばれます。 - 平滑筋組織
平滑筋組織は、紡錘状の筋線維が集まったもので、消化管・気道・血管の管壁や眼球(虹彩)にあり器官の運動を行う筋で内臓筋と呼ばれます。その運動は自律神経の支配により行われ、緩慢で意志に従わないので不随意筋とも呼ばれます。 - 心筋組織
心筋組織は、横紋筋線維からなり心臓の壁をつくっています。筋線維は分岐して隣の線維と連絡結合しています。その運動は自律神経の支配により行われ、意志に従わないので不随意筋とも呼ばれます。
- 骨格筋組織
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⑤神経組織
神経組織(Nervous tissure)は、神経細胞と神経膠細胞が集まったもので、脳、脊髄および末梢神経を作っています。
神経組織は、人体を構成する器官の間での情報交換をすみやかに行い、人体全体の機能をコントロールすることです。神経組織は2種類の細胞からなっています。神経系の機能単位で興奮伝導単位である神経細胞(neuron)と神経膠細胞(グリアglia)と呼ばれる特殊な結合支持細胞です。全てのニューロンは、細胞体と2種の突起(樹状突起と軸索)からなります。
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- 樹状突起
樹状突起は、細胞体から数本出て樹状に枝分かれした突起で、興奮を受けとり細胞体に向かって伝える働きをします。 - 軸索
軸索は、細胞体から出る1本の長い突起で、興奮を細胞体から末梢に伝える働きをします。脳脊髄神経における軸索は髄鞘を有するものが多く、自律神経系のものは一般に髄鞘がありません。興奮の伝達速度は髄鞘のある方が早いです。
- 樹状突起
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2 骨格系
1 骨格とは
人体は、約200個の大小いろいろな形の骨から形作られています。これらの骨の大部分は、先に軟骨ができてそれが骨に変わったもの(原始骨・置換骨)です。
頭蓋骨のように、結合組織のなかの骨芽細胞が骨になったもの(付加骨)もあります。こうしてできた骨が、軟骨や靭帯、関節によって一定の方式で可動的に連結したものを骨格と呼びます。
すなわち、骨の形成には2つの流れがあり、一つは軟骨内骨化による置換骨と、もう一つは膜性骨化による膜性骨(結合組織性骨)です。
軟骨内骨化は軟骨の原基ができた後にそれが骨に置き換えられるので置換骨と呼ばれ、膜性骨化は結合組織が直接に骨に転換するので膜性骨と呼ばれます。
骨格は、頭蓋・脊柱・胸郭・上肢骨・下肢骨に分類されます。それぞれの骨の数は、
頭蓋23個
脊柱26個
胸郭25個
上肢骨64個(23×2)
下肢骨62個(31×2)
の合計200個からなります。
骨格は身体の支柱をなし、体腔(頭蓋腔・脊柱管・胸腔・骨盤腔)をつくり脳や脊髄及び内臓の一部を入れて保護しています。さらに骨には筋の腱が付着し収縮運動を行います。
骨の内部は赤色骨髄があり、造血機能(赤血球,白血球,血小板をつくる)の働きをします。また、カルシウムやリンの貯蔵する働きもします。
2 骨の形と構造
(1)骨の形状
骨はその形によって、長骨・短骨・扁平骨および含気骨に分けられます。
①長骨(long bones)
長骨は管状骨とも呼ばれます。上腕骨や大腿骨のように長い骨で、長い管状の骨幹の両端に膨らんだ骨端があります。表面から見ると長骨は緻密な骨からできているように見えますが、その内部は疎な構造物(海綿質)になっていて、骨髄(造血器)が入っています。
骨端の表層は緻密質につづく薄い皮質で、内部は薄い骨質が交差した海綿質からなります。骨幹と骨端の間に骨端軟骨があり、大人になってそれが骨化して骨端線として残ります。
②短骨(short bones)
短骨は、足根骨や手根骨のような立方系ないし積み木状の短い骨をいいます。その緻密質は長骨より薄く、明瞭な境界なしに海綿質に移行しています。
③扁平骨(flat bones)
扁平骨は、頭蓋骨や胸骨・肋骨・肩甲骨・腸骨など、その字のごとくお皿のような扁平な形をした骨を言います。
扁平骨は、2層の硬い緻密質に狭まれて、薄い海綿質が存在します。頭蓋骨では緻密骨は外板と内板にあたるその間に海綿質相当する板間層があります。
④含気骨(pneumatic bones)
含気骨(がんきこつ)は、骨の重量を軽減するために、骨の一部に空気の入る腔を持ちます。
例えば、頭蓋骨は骨の一部に空気が入る副鼻腔があり、内面は粘膜で覆われています。このような骨を含気骨といい前頭骨、篩骨、蝶形骨、上顎骨などがあります。
(2)骨の構造
骨は骨膜、骨質(緻密質・海綿質)、軟骨、骨髄から構成されています。
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- 骨膜
骨膜は、関節面を除く骨の表面を覆っている二重の強い結合組織の膜で、血管や神経が多く分布し骨の栄養と知覚を営んでいます。また骨の太さを増し、骨折のときなどには再生と増殖を行います。 - 骨質
骨質は、骨組織からなり、緻密質と海綿質に分けられます。緻密質は骨の表面にあり硬く骨幹の表層部ハバース層板をなし、海綿質は内部と骨端部に多くあります。緻密質にはハバース管とフォルクマン管があって、血管が通っています。
- 骨膜
- 軟骨
軟骨は、骨端軟骨と関節軟骨に分類されます。-
- 骨端軟骨
骨端軟骨は、長骨の骨端と骨幹の境にあり、この軟骨の増殖と骨化によって骨の成長が増します。骨の成長は、下垂体からの成長ホルモンの支配を受けます。 - 関節軟骨
関節軟骨は、関節面を覆っている硝子軟骨で、関節面を滑らかにして関節を保護しています。
- 骨端軟骨
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- 骨髄
機能が盛んです。成長後は脂肪化して黄色骨髄となり、造血機能がなくなります。赤色骨髄の造血作用は、長骨の髄腔および海綿質の小腔に位置する細網組織で行なわれます。(赤色骨髄) - 骨の化学的成分
骨は有機物(膠様質)と無機物(石灰質)からなります。無機成分は骨の50%~60%を占めます。主にリン酸石灰、炭酸石灰、リン酸マグネシウムなどです。
有機物は骨に弾力性を与え、無機物は骨に硬さを与えます。酸を作用させて石灰質を除くと、有機成分だけとなり、軟骨のように軟らかくなります。また骨を注意して焼くと無機成分だけ残って、骨はもろく壊れやすくなります。幼児の骨は有機物に富むために弾力性があり、骨折をしにくい反面、変形しやすくなります。
老人の骨は石灰質に富んでいて硬いのですがその反面、有機質が少ないために弾力性が無く、骨折を起こし易く、また治りも遅くなります。
(3)骨の結合
- 結合とは
全身にある200余個の骨は、大部分が一定の規則によって連結しています。その連結を結合と言い、不動結合と可動結合があります。-
- 不動結合
2つの骨がひと続きに連結し、両者の間に空気が無く、骨と骨が硬く結びついています。両者の間に自由な隙間がなく、従って可能性が全く無いか或いはわずかに動かせる程度のものです。これをさらに線維性結合、軟骨結合、骨結合に分けられます。- 線維性結合
線維性結合は、骨と骨との間にある結合組織によって連結され、可動性は小さく、靭帯結合・縫合・釘植があります。- 靱帯結合
2骨間の線維性結合組織が、骨間膜あるいは靭帯を形成しているような線維性の骨の連結を言います。 - 縫合
隣り合った骨と骨との狭い隙間をごく少量の結合組織が満たすもので、頭蓋骨の大部分は縫合により連結しています。 - 釘植
円錐状の歯根が歯槽にはまるもので、両者の間には微量の結合組織線維があって、両者を結合させています。
- 靱帯結合
- 軟骨結合
軟骨結合は、骨と骨との間にある軟骨が結合するもので、椎体間に線維性軟骨(椎間板)があって結合します。恥骨結合は軟骨結合です。 - 骨結合
2つの骨間の軟骨結合が骨化したもので、仙骨や寛骨は骨結合です。
- 線維性結合
- 可動結合
骨と骨の連結面の間には一定のすき間(関節腔)があり、内面に滑膜が張っていて、滑膜により両骨は互いに運動しやすいように結合しているので滑膜性連結と呼ばれます。関節は可動結合です。
- 不動結合
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(2)関節
関節は、両骨が互いに運動できるように連結しています。一方が凸面で関節頭、他方は凹面で関節窩を持ち、関節面は関節軟骨でおおわれています。関節軟骨は、関節を滑らかにし、関節にクッションを与える役割をします。
関節の周囲は関節包で包まれ、その内部の腔を関節腔と言います。関節包の内面は滑膜おおわれ、滑膜は滑液を分泌し、関節の運動を円滑にしています。関節包の外側には靭帯があり、関節の保護、過度の伸展を防ぐ役目をしています。一部には、関節腔内にある関節内靭帯もあります。
関節がうまく適合しない場合に、関節唇(肩関節、股関節)、関節半月(膝関節)、関節円板(顎関節)などがあり、関節面の適合をはかります。
関節は運動軸によって1軸性(屈伸)、2軸性(屈伸、回旋)、多軸性(すべての方向に動く)に分類され、さらに関節面の形状によって、つぎのように分類されます。
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- 球関節
肩関節や股関節は球関節です。関節頭が半球状で、関節窩もそれに対し半球状にへこんでいて、あらゆる方向に運動ができます。股関節は臼状関節とも呼ばれます。 - 蝶番関節
関節頭は円柱状で、関節窩もこれに合うようにへこんでいます。運動は関節頭の円柱を中心とする屈伸のみで、溝と隆起によって可動方向が規制されます。 - 車軸関節
関節頭は円柱状で、関節窩は半円形でへこんでいます。回転運動ができる一軸性の関節です。正中環軸関節や上橈尺関節がこの関節を持ちます。 - 楕円関節
関節頭も関節窩も楕円形をしています。屈伸運動や回内外運動を行います。 - 鞍関節
関節頭と関節窩が馬の鞍状をしています。この関節は屈伸回内と回外運動ができます。母指の手根中手関節がこの関節を持ちます。 - 半関節
仙腸関節のように関節面が凹凸をしていてほとんど運動がありません。
- 球関節
(4)頭蓋
- 頭蓋の種類
頭蓋は、脊柱の上に乗っている骨格で、そのなかには脳、視覚器(眼)、平衡聴覚器(耳)、鼻腔および口腔を入れています。頭蓋の骨は全部で15種23個あり、脳頭蓋と顔面頭蓋に分けられます。- 脳頭蓋
脳頭蓋は、内部に脳を収めて保護しています。全部で6種8個の骨からなります。に分けられます。
- 顔面頭蓋
顔面頭蓋は、視覚器(眼)、鼻腔および口腔を入れています。全部で9種15個の骨からなります。に分けられます。
- 脳頭蓋
- 頭蓋の構造
- 頭蓋の上面
頭蓋の上面には、前頭骨・左右頭頂骨・後頭骨があり、互いに縫合によって硬く結合されています。
前頭骨と左右頭頂骨は冠状縫合で結合しています。左右の頭頂骨間は状縫合で結合しています。左右の頭頂骨と後頭骨とは人字縫合で結合しています。 - 頭蓋の前面
前額部の下に、眼球を入れる一対の眼窩があります。上顎部の中央に、左右の鼻腔が梨状口をもって開いています。
上顎骨の下縁に各側8個の歯が生え、歯列をつくっています。下顎骨はC 字形をし、外耳孔の前で側頭骨と結合して顎関節を形成しています。咀嚼運動に大そしやく切な関節です。
下顎骨の上縁に各側8個の歯が生え、歯列をつくっています。 - 頭蓋の後面
頭蓋の後面には後頭骨があり、その中央に外後頭隆起があります。その両側に上項線、下方に下項線(僧帽筋の起始)があります。 - 頭蓋の側面
側面には側頭骨があって、その外側面のほぼ中央に外耳孔があり、内方に向かって外耳道となっています。外耳孔の後下方に乳様突起が突出し、この基部の前に茎乳突孔があり、顔面神経が出ています。 - 頭蓋の下面
下面には頭蓋腔に出入する神経、血管が通るための多数の孔、管、溝があります。正円孔(上顎神経)、卵円孔(下顎神経)、棘孔(硬膜枝)、頸静脈孔(迷走神経、副神経、舌咽神経、内頸静脈)、頸動脈管(内頸動脈)、茎乳突孔(顔面神経)、頭蓋底のやや後方に大(後頭)孔があり、頭蓋腔と脊柱管の連結部をなしています。
- 頭蓋の上面
(5)脊椎
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- 脊柱
脊柱は身体の支柱をなす長い骨格で、成人でおよそ70~75 cm あり、32~34個の椎骨が椎間板と椎間関節(上関節突起と下関節突起の関節)によって連結された骨の柱です。
脊柱を横から見るとS字状になっていて、頸郡と腰部で前彎し胸部と仙尾部で後彎しています。
脊柱の内部には脊柱管と呼ぶ長い管があり、上方は大(後頭)孔を経て頭蓋腔につづき、下方は仙骨の仙骨管裂孔で外に開いています。第2腰椎より上方の脊柱管のなかは、髄膜に包まれた脊髄が入っています。
各椎骨間に椎間孔があり、そのなかを脊髄神経が通っています。 -
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- 頸椎
第1頸椎は形が環状をしているので環椎と呼ばれ、上方で頭蓋(後頭骨)と関節(環椎後頭関節)します。
第2頸椎は頭を前後左右に動かす働きをし、軸椎と呼ばれ、棘突起が上方に突出し、環椎と関節して正中環軸関節をつくります。その外側に外側環軸関節があり、頭の回転運動を行います。
第7頸推は頸を前方に曲げると後方でよく触れるので、隆椎といいます。横突起の基部に横突孔があり、第6頸椎より上の横突孔を椎骨動脈が通り大脳動脈輪をつくり脳に血液を送ります。 - 胸椎
左右に12対の肋骨が関節します。 - 腰椎
全体として大きく、とくに体重がかかⅳ)仙骨5個の仙椎が骨化して、ひとつの骨になったものです。前、後面に4対の仙骨孔が開き、仙骨神経が通っています。 - 尾骨
尾骨は退化した3~5個の尾椎が融合してできた骨です。るため椎体が厚くて広く、肋骨突起を有します。椎骨
椎骨は上方からあります。仙椎と尾椎は思春期のころになると骨化し、1個の仙骨および尾骨となります。
- 頸椎
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- 脊椎の関節
- 環椎後頭関節
後頭骨後頭顆と環椎の上関節窩との関節を環椎後頭関節と言い、頭の前屈、後屈、側屈を行います。 - 正中環軸関節と外側環軸関節
環椎と軸椎との関節を言い、頭の回転動作を行います。 - 椎間関節
推体の上関節突起と下関節突起との関節です。 - 椎間板
椎間円板とも言い、上下の椎体間を連結する線維軟骨です。周辺部を線維輪、中心部を髄核と言います。髄核は水分を含み、脊柱に弾性とクッションを与えます。 - 靱帯
各椎骨間と脊柱に張って、椎体間の結合を補強、支持します。おもな靭帯に脊柱の全面にある前縦靭帯、脊柱管前壁にある後縦靭帯、椎弓間にある黄色靭帯、棘突起間にある棘間靭帯があります。
- 環椎後頭関節
- 脊柱
(6)胸郭
①胸郭の構造
胸郭は、籠状の骨格で、上方を胸郭上口、下方を胸郭下口といいます。胸郭下口は、横隔膜によってふさがれています。
胸郭は、呼吸運動に重要な役目をし、内・外肋間筋の働きで胸郭の縮小と拡大が起こり、胸腔内の容積が増減し、空気が肺に出入します。これを胸式呼吸運動と呼びます。
胸郭は、
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- 肋骨
肋骨は、扁平長骨で左右12対あり、肋硬骨と肋軟骨からなります。肋硬骨の後瑞は、肋骨頭関節と肋横突関節とで胸椎と連結します。
第1~第7肋軟骨は、前方で胸肋関節により胸骨と連結し真肋と言います。
第8~第10肋骨は、順次肋軟骨で連結し、左右に肋骨弓をつくります。
第11~第12肋骨は先端が腹壁に遊離し、仮肋といいます。
肋骨下線の肋骨溝を肋間神経、肋間動静脈が走ります。 - 胸骨
胸骨は、胸部の前面正中部にある縦長の扁平骨で、胸骨柄、胸骨体、剣状突起からなります。
- 肋骨
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(7)上肢
①上肢の骨
上肢は、体幹の骨に連結する上肢帯と自由上肢骨から成り立っています。両側で64個の骨があり、全て関節で連結しています。
上肢帯の骨は、鎖骨と肩甲骨があって体幹と結合しています。自由上肢骨は肩関節より下方の骨で、上腕骨、橈骨、尺骨、手根骨、中手骨、指骨があります。
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- 鎖骨
胸郭の前上部の左右にあって、内側端は胸鎖関節により胸骨に連結し、外側端は肩鎖関節により肩峰と連結します。鎖骨は、上腕の運動の際よく動き、体幹と上肢帯が連結しているのは、この胸鎖関節だけです。 - 肩甲骨
第2肋骨~第8肋骨の高さの胸郭背面にある逆三角形の扁平骨です。肩甲骨の上外側に半球状の関節窩があって、上腕骨頭と連結して肩関節(球関節)をつくります。 - 上腕骨
上腕骨上端の上内方に半球状の上腕骨頭があり、肩甲骨の関節窩と肩関節を形成します。下端は内側に上腕骨滑車、外側に上腕骨小頭があって、橈骨および尺骨の上端と連結して肘関節をつくります。 - 橈骨
前腕の母指側にあり、上端を橈骨頭といいます。橈骨頭の周りは関節環状面となり、上橈尺関節で尺骨と連結します。下端の下面には手根関節面があり、橈骨手根関節で舟状骨、月状骨、三角骨と関節します。 - 尺骨
前腕の小指側にあり、また上端の前方に滑車切痕があり、腕尺関節で上腕骨滑車と関節します。下端は橈骨と連結します。 - 手根骨
手根部にある8個の短骨で、4個ずつ2列に並んでいます。近位に母指側から舟状骨、月状骨、三角骨、豆状骨があり、遠位には大菱形骨、小菱形骨、有頭骨、有鈎骨が並んでいます。 - 中手骨
手掌にある管状骨で、5個あります。 - 指指骨
母指は基節骨と末節骨からなり、四指は基節骨、中節骨、末節骨から成ります。
- 鎖骨
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②上肢の関節
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- 肩関節
肩甲骨関節窩と上腕骨頭によってできた球関節であらゆる方向に運動する多軸性関節で広い可動性を持ちますが、それゆえに不安定な関節でもあります。 - 肘関節
上腕骨、橈骨、尺骨の3骨の間に生じた複関節で腕尺関節、腕橈関節、上橈尺関節の3つの関節からなり同じ関節包で包まれています。- 腕尺関節
上腕骨滑車と尺骨の滑車切痕との間にある蝶番関節で肘関節の主なる作用である屈伸運動を行います。 - 腕橈関節
上腕骨小頭と橈骨頭上面の関節窩との間にある球関節で肘関節の屈伸運動及び前腕の回旋運動を行います。 - 上橈尺関節
橈骨関節環状面と尺骨の橈骨切痕との間にある車軸関節で、橈横と尺骨の下端の間にある下橈尺関節と共同して前腕の回旋運動を行います。 - 橈骨手根関節
手根関節の主な部分で、橈骨下端の関節面と舟状骨、月状骨、三角骨との間にある楕円関節で、2軸性の運動を行います。手を尺側に背側に曲げたり、母指側と小指側へまげる作用を行います。
- 腕尺関節
- 肩関節
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(8)下肢
①下肢の骨格
下肢帯と自由下肢帯で形成されます。両側で62個の骨があり、全て関節で連結しています。
下肢帯の骨は、寛骨で骨盤の形成にあずかる一方、仙腸関節で仙骨と連結し、さらに体幹と連結しています。自由下肢骨は股関節より下方の骨で、大腿骨、膝蓋骨、脛骨、腓骨、足根骨、中足骨、指骨からなります。
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- 寛骨
腸骨、坐骨、恥骨の3骨が互いに癒合してできた骨で、外側面には寛骨臼という関節窩があり、大腿骨頭と連結して股関節を形成しています。 - 腸骨
寛骨の上部にある扁平骨で、その上に広がっている部分を腸骨翼といい、その上縁を腸骨稜といいます。腸骨稜の前面に上前腸骨棘があり、左右の腸骨稜上縁を結んだ高さをヤコビー線と言い、およそ線上に第4腰椎棘突起があります。 - 坐骨
寛骨の後下部で、下方に坐骨結節が突出しています。大坐骨切痕(大坐骨孔)があり、坐骨神経が出てきます。 - 恥骨
寛骨の前下部で、正中線上で左右の恥骨が軟骨結合します。恥骨結合とも言います。 - 大腿骨
人体中最大の管状骨で、上端は上内方に向かって大腿骨頭があって寛骨臼と関節し股関節を形成します。骨幹の上端の外側に大転子、内側に小転子があり、下端には内側顆と外側顆があり、脛骨の関節面と連結し膝関節を形成します。 - 膝蓋骨
膝関節の前面にある骨で、膝関節の構成に関与します。大腿四頭筋の種子骨です。 - 脛骨
下腿の内側にある三角柱状の骨で、上端は大腿骨と連結しています。前面には、膝蓋腱がつく脛骨粗面があり下端の内側には内果が突出しています。下面は腓骨下端とともに距骨と連結して、距腿関節を作っています。 - 腓骨
下腿の外側にある細長い骨で、脛骨と平行しています。上端に腓骨頭があり、下端の外側に外果があります。 - 足根骨
足根部にある7個の短骨で距骨、踵骨、舟状骨、第一(内側)楔状骨、第二(中間)楔状骨、第三(外側)楔状骨、立方骨から成ります。 - 中足骨
足根骨と指骨を結ぶ小さい5個の管状骨を言います。 - 指骨
母指は基節骨と末節骨から成り、四指は基節骨、中節骨、末節骨で形成されています。
- 寛骨
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②骨盤
左右の寛骨と、それらの間にある仙骨ならびに尾骨によって構成された骨格を言います。
骨盤は岬角から腸骨の内面を通り、恥骨上縁に至る分界線によって大骨盤と小骨盤に分けられます。小骨盤は、骨盤内臓(膀胱・直腸・子宮・卵巣・卵管・前立腺など)を保護しています。
骨盤の男女差は、一般に男性骨盤はバケツ状を、女性はタライ状をしています。
男性骨盤は高くて狭く、女性骨盤は低くて広く、骨盤入口(上口)は男性がハート形で女性が横楕円形、恥骨下角は男性が60~70度(恥骨角)、女性が70~90度(恥骨弓)です。
③下肢の関節
股関節
股関節は、寛骨の寛骨臼に大腿骨頭が連結して構成されている球関節で、臼状関節とも呼ばれます。
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- 膝関節
膝関節は、大腿骨・脛骨・膝蓋骨からなる蝶番関節で、屈伸運動と回旋運動を行います。らせん関節とも呼ばれます。関節腔内に前十字靱帯・膝十字靭帯と半月板を持ちます。 - 距腿関節
距腿関節は、脛骨の下関節面、腓骨の下面と距骨滑車との間にできた蝶番関節で屈伸と内転・外転運動を行います。らせん関節とも呼ばれます。
横足根関節は、踵立方関節と距舟関節からなり、ショパール関節と呼ばれます。
足根中足関節は、第1~第5中足骨と3個の楔状骨と立方骨の関節で、リスフラン関節と呼ばれます。
- 膝関節
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