病理学

病理学

1 病理学

(1)病理学とは

病理学とは、病気の原因とその成り立ち、他の病気との鑑別、治療効果、死の原因などについて科学的に研究する学問、要するに病気の本質を研究する学問のことです。

(2)疾病の分類

①健康と疾病

疾病と健康とは相反するものです。健康とはWHO(世界保健機構)によれば、「心身ともに正常で、社会的にも健康感(well-being)に満ちていることである」と定義していますが、「社会的」条件は人や国、時代によってかなり幅があり、自然科学の対象を超えた問題も含んでいます。

生理学的に正常とは何か、フランスのクロード・ベルナール(生理学者)は、「生体の特徴は内部環境が一定に維持されていることであって、それが生命維持の基礎である」と言っています。これを生体恒常性と言います。例えば、私たちの身体は、体温が一定していて、心臓は不随意的に収縮運動を繰り返しながら血液を循環し、肺呼吸により血清の酸素濃度を保ち、腎臓は分泌吸収機能を通して血液の容量やpHを一定に保っています。それは神経系・内分泌系・免疫系の三者が相互に独立しながら密接に関連し、ホメオスターシス(恒常性)を維持しているからです。

このうち神経系の働きは、神経の配線網による神経シグナルの伝達により行われ、内分泌系は血液循環を利用してホルモン情報を体の隅々まで送り、受容体を持っているところで働きます。免疫系は外界からの侵入や、内なる異物、例えば癌などに対し、絶え間なく監視し、これを排除する働きをしています。

疾病とは、このような機構を介し、保たれている恒常性から逸脱した状態である言えます。

②疾病の分類

疾病は、大きく「先天性疾病」と「後天性疾病」の2つに分けることができます。先天性疾病は、遺伝子と関係する遺伝性先天性疾患(色盲・血友病・先天性代謝病など)と母体内の胎児に加害因子が加わった結果起こる非遺伝性先天性疾患(先天性梅毒・奇形など)に分けられます。

後天性疾患では、感染病原体によって発病し、人から人あるいは人から動物を介しさらに人へ伝染するもので、伝染病と呼ばれています。全然原因のわからない病気は特発性と

か本態性疾患というように表現していましたが、医学の進歩と共に、この様な表現は徐々に無くなる傾向にあります。

疾病は、病変が身体の一部に限定している場合は、「限局性疾患」と呼び、全身の臓器が広く侵されている場合は、「全身性疾患」または「系統的疾患」と呼びます。例えば、肺炎とか腎萎縮など肺や腎臓に限局した場合を限局性疾患と言い、敗血症とか白血病など全身の臓器や組織に病変を認めるものを全身性疾患と言います。

一定の臓器に形態的な変化を認める場合を「器質的疾患」と言い、構造的変化を示さずただ機能的異常のみが認められるのを「機能的疾患」と呼びます。例えば、肝炎とか胃癌とかは器質的疾患で、精神分裂病とかノイローゼなどは脳の機能的疾患になります。

複数の疾病が相互に深く関わっている場合には、最初に起こったものを「原発性(一次性)疾患」と言い、二次的におこったものを「続発性(二次性)疾患」と言います。例えば、HB―ウィルスによる肝炎が起こり、慢性化して肝硬変になった場合、肝炎は原発性で肝硬変は続発性となります。脳下垂体と精巣という2つの臓器の場合、精巣は下垂体から分泌されるゴナドトロビンによって機能的に支配されていますが、下垂体およびその上位にある視床下部に変化があってゴナドトロビンの分泌が低下し睾丸萎縮が起こってくると続発性睾丸萎縮と呼び、上位中枢になんら変化がなく精巣それ自身に原因があって萎縮が起こってきている場合は原発性萎縮と呼びます。

相互に直接的因果関係がなく2つ以上の疾患がある場合、個体の生命にとってより重大な影響のあるほうを「主疾患」と言い、他方を「合併症」と言います。例えば、胃癌の患者に貧血が見られれば、胃癌が主疾患で貧血は合併症と言うことになります。

(3)症候の分類

①病変

病変は、循環障害・退行性病変・進行性病変・炎症・腫瘍・奇形の6つの型に分類されています。これらの病変は、実際には単独で存在するよりはむしろ2~3の病変が複合している場合が多いようです。

②症候

症候とは、病変によって起こる病的現象を言います。病人が自分で感じる症候を自覚症状と言い、病人が自身では判断できず医師や治療家がいろいろ検査した結果で分かるものを他覚症状と言います。

疾患の持つ特有の性質によって直接起こる症候を直接症状と言います。例えば、溶血性貧血による黄疸や赤血球減少は直接症状で、その結果起こる出血や感染症は間接症状となります。胃幽門部癌による幽門部通過障害は直接症状で、その肝門部転移によって生じた閉塞性黄疸は間接症状になります。

③症候群

症候群とは、ある疾病あるいは病的状態を特徴づける症候の総称のことで.す。例えば、

原因の如何を問わず高度の蛋白尿・浮腫・低蛋白血症のある場合をネフローゼ症候群と呼びます。また頸上腕症候群のように症候のおこった解剖学的位置から名づけた場合もあります。

④病名

病名は、名称がつけられた時代の背景で様々です。例えば、症候がそのまま病名になつていたり、病因が直接病名になったり、単に病気の提唱者の名前がつけられていることもあります。病名が長い間によって、疾患概念そのものを代表するものになっているので正確な病名診断は、病態の認識と治療に不可欠になります。

(4)疾病の経過

疾病を時間の流れでみると、潜伏期一発病ー発病初期一中期一最盛期(極期)一回復期一回復という経過をたどります。また経過時間の長短によって急性・亜急性・亜慢性・慢性疾患などに区別されます。急性疾患とは全経過が1〜2力月で終了するものを指します。経過の最終段階に死が予想される場合は予後不良と言い、回復が予想されるときは予後良好と言います。したがって疾患の転帰は予後が決定したときを指し、治癒か死の二途をとります。治癒の転帰には、完全に元の健康状態に復する完全治癒と多少とも機能障害が残る不完全治癒があります。

2 病因

(1)病因

疾病は内因と外因の複合した組み合せによって起こります。内因によって準備状態が先行している時に外因が加わり疾患が成立します。例えば、免疫不全症があると感染症や悪性腫瘍になりやすくなります。免疫不全症という内因は遺伝子の異常による場合があります。また、ある先行する病変があり薬物投与やウィルス感染などで起こることもあり、その人の持って生れた体質と生後の生活環境との相関により内因性因子が決まってきます。発病には複数の因子が関係し、一つの内因は外因を誘き寄せ、さらに加わった外因により新たな内因的変化が生まれるといった相互関係により疾病の原因は構成されます。

放射線障害や伝染病などの外因が圧倒的に強い場合は、内因の有無にかかわらず発症することもあります。そこで、疾病の成立にもっとも大きな原因として作用しているものを主因と呼び、主因の働きを助長する病因を副因または誘因と呼んでいます。

(2)内因

疾病になりやすい内在的状態を素因と言い、①年齢、②性、③人種、④臓器、⑤体質、⑥遺伝、⑦内分泌ホルモン、⑧免疫などの条件がそれぞれ関連し合っています。

①年齢

年齢層によってなりやすい疾患があります。例えば、新生児は奇形と代謝異常が多く、呼吸障害、羊水吸引、肺硝子膜症などがあげられます。分娩障害による脳性麻痺、斜頸、胎児期感染性(先天性梅毒・風疹など)も新生児に特有な疾患です。

小児期には、麻疹(はしか)や水痘などの感染症や代謝異常が多くみられ、肝芽腫・網膜芽腫・白血病など小児の悪性腫瘍もみられます。

壮年期以降は、高血圧・動脈硬化症・糖尿病などの生活習慣病(成人病)や癌が増加します。

②性

男女の性差による疾患は、主に内分泌機能との関連によるものです。男性は、心臓血管病とくに心筋梗塞や脳軟化症など動脈硬化性のもが多発します。女性には関節リウマチ・全身性ユリテマトーデス・皮膚筋炎・シェングレン症候群などの自己免疫病が多く見られます。

また、生活習慣によって、男性には肺癌・食道癌・肝癌が多く見られます。女性には胆石症・鉄欠乏性貧血・骨粗髭症などが多く見られます。

③人種

人それぞれによって遺伝的背景は異なりますが、人種や地域によって共通した素因が見られます。生活様式や気候風土と、食事や習慣、近似した遺伝的要素の影響を受けます。日本人には胃癌と子宮痛が多いですが、西洋人には大腸癌と乳癌が多く見られます。また日本人には動脈硬化性疾患のうち脳卒中が多く、酉洋人は心筋梗塞が多く見られます。

同じ日本人でも居住地域によっても異なります。例えば、東北地方は脳血管障害が多く見られます。

④臓器

疾病は臓器の構造と機能に大いに関係し、臓器の種別によって疾病に対する素因が異なります。感染などの外因的条件として臓器の組織に対する親和性があります。例えば、ポリオウィルスは脊髄前角細胞に感染しますが、日本脳炎ウィルスは大脳灰白質の神経細胞に感染します。腸チフス菌は小腸に、赤痢菌は大腸に病巣を作ります。これらは病原体の生活様式と感染経路が関係し、臓器側から言えば病原体が生息しやすい環境かどうかということになります。

⑤体質

人の体質は、その人の持つ遺伝子と、生活環境によって決定づけられて行きます。体質的特徴が正常の範囲を超えると異常体質と呼ばれ、疾病を引き起こしやすくなります。

体質は形態的には肥満型とやせ型に分けられます。機能的にはアレルギー性・滲出性や特異体質などに分けられます。精神的には分裂病型や躁うつ病型などに分けられます。

滲出性体質とは、皮膚や粘膜に滲出性炎症を起こしやすい体質で乳幼児に見られます。

アレルギー体質とは生理的生活環境においてもアレルギー性変化を起こしやすい体質で、特異体質とは、ある種の薬剤や食物などに対し特異な生体反応を示す体質を言います。例えば、薬剤投与の後に悪心嘔吐や発疹が出て、ひどい場合にはショック症状を引き起こします。これは免疫反応で、全身性のアレルギー反応の一つです。

⑥遺伝

遣伝とは、親の生物学的な種々の特性(形質)が子に伝えられること言います。親の形質についての遗伝情報をたくわえている性細胞を通じて行われます。性細胞(配偶子)は減数分裂を行った後、異性の配偶子と受精して接合子を作ります。そして遺伝情報をもつ染色体が個体の間で交換され、細胞あたりの染色体数も種によって決まった数に保ちます。

遺伝子は、染色体上に並ぶ塩基対の中の特定の一部分です。すべての染色体の持つ塩基対の種類は同じですが、塩基対の並ぶ順序、すなわち配列が異なります。遺伝子の本体はデオキシリボ核酸DNAで、染色体はこの遺伝子が特定の場所に配置され、遺伝情報はDNAの塩基配列で決められます。遺伝情報の指令によりメッセンジャーRNA、リボゾームRNAの働きを介し,蛋白質合成が行われ形質が決定されます。・

人は体細胞すべてに46本(23対)の染色体を持ちます。そのうち44本(22対)は常染色体で、残りの2本が性染色体です。性染色体は女では2本のX染色体、男では:!本のX染色体と:!本Y染色体とからなっています。対をなす染色体は同一の構成からなり

(相同染色体)、同一の遺伝子が対をなして存在していることになります。

両親から伝えられる形質の発現は、1対の対立遺伝子だけで決まる場合もあるが(単一遺伝性)、複数の対立遺伝子が関与している場合もあり、このような形質はしばしば多因子形質と言われます。この場合の多因子性と言うのは、遺伝性・非遺伝性の環境因子の両者の要因を含めて言います。例えば、体格や知能など量的な形質は複数の対立遺伝子が関与している形質であり多因子性でもあります。

遺伝子は安定したもので、これはDNAの安定性に根ざしており、長い間に世代から世代へと伝えられます。しかし遺伝子の不変性は絶対的ではなく、様々な原因でDNA分子は化学変化を起こします。このような遺伝子の質的変化を突然変異と言い、突然変異による遺伝情報の変化によって、新しい種の誕生や進化があるのです。多くの化学物質や物理的刺激(X線など)が突然変異を引き起こすことがあり、例えば癌との関連が強く疑われます。

⑦内分泌ホルモン

内分泌ホルモンは生体の生理的な調節機能に重要な働きをします。ホルモンの過剰分泌、または低機能状態は病気になりやすくします。例えば、下垂体の好酸性腺腫から分泌される成長ホルモンの過剰分泌により小児期に発症すると巨人症になり、思春期以降に発症すると末端肥大症を引き起こします。

低機能状態では下垂体性小人症を引き起こします。小児期から下垂体前葉機能が低下しているか、または下垂体成長ホルモンの単独欠損により発育不全の状態になります。ヒト成長ホルモン注射で治療が可能です。

成人女子は、シーハン病(分娩時の出血多量などが原因)により下垂体の広汎な虚血性壊死のため汎下垂体機能失調症を引き起こします。下垂体後葉が破壊された場合は抗利尿ホルモン低下をきたし尿崩症となります。

甲状腺の過機能状態は代謝を促進しバセドウ氏病を誘発し、低機能状態は代謝を抑制し多臓器性の機能低下(粘液水腫)を起こします。甲状腺の自己免疫性慢性炎症(橋本病)では低機能に陥ります。副腎皮質の機能亢進で副腎皮質ホルモンの過剰分泌(クッシング症候群)が起こると、高血圧や高血糖・肥満などになります。アルドステロンの分泌が亢進すると、高血圧や低カリウム血症・浮腫などが表われます。副腎髄質から過剰のカテコールアミンが分泌される褐色細胞腫では高血圧症になります。

心因性疾患(心身症)においてもホルモンバランスが崩れ病症を引き起こします。不安や緊張などの心の動揺が身体の病気の原因になります。精神的・肉体的ストレスが過剰になると視床下部・卞垂体系を通じて内分泌ホルモンのバランスが崩れ、ホメオスターシスの維持に変化を与え、高血圧・アレルギー・胃十二指腸潰瘍・糖尿病・動脈硬化症などを引き起こします。アレルギーとは、抗原刺激に対し過剰に反応する状態で過敏反応とも言われます。

⑧免疫

免疫とは身体の防御機能を指し、体内へ侵入してくる病原性微生物・移植された組織細胞、自身の中で発生する悪性化・ガン化した細胞などから身を守る機能のことを言います。ここでは、二度と同じ感染症にかからないということになります。例えば、ワクチンを接種しておけば本物のウィルスに感染しても発病しないと言うことです。これは、ワクチンに含まれるウィルス抗原の刺激によって免疫抗体ができたためで、リンパ球を主体とする生体の免疫組織の基本的な働きによるものです。

リンパ球は、T細胞とB細胞の2種類からなります。免疫組織は中枢性と末梢リンパ組織に分けられますが、中枢性リンパ組織は、胸腺と骨髄からなっていて、骨髄でできたT前駆細胞は胸腺内でT細胞となります。B細胞は骨髄で産生されます。末梢リンパ組織は全身に分布するリンパ節、脾、消化器粘膜下リンパ組織など木らなり、抗原の刺激に応じてリンパ球の増殖する場所となっています。

細胞性免疫の場合も抗原により活性化されたT細胞の介助により刺激をうけた他のT細胞が反応細胞とな!り免疫反応が行われます。

(3)外因

外からの力が生灰の防御力を超えて作用し、生体の恒常性が乱された時に病気になります。人それぞれ免疫力や抵抗力が異なるので、同じ外因が作用しても必ずしも発病するとは言えません。また病気の程度も個人で差があります。

外因は.、生体の恒常性のレベルを変えます。ある病原体に対し免疫を獲得すると病気にかからないようになります。ですから、同じ外因でも同じ病気を同じ程度に引き起こすとは限りません。

病気の外因は、外の環境から来ますが、現代では外部環境は人工的に急速に変化し、環境汚染などの問題も大きく影響しています。外因は大別して①栄養素の供給障害、②物理的病因作用、③化学的病因作用、④生物的病因作用の4つに分けられます。

①栄養素の供給障害

生体は、生命活動に必要なエネルギーと栄養素を摂取する必要があります。構造の維持や生体機能恒常性の保持に必要な最低限度量以外に、発育や妊娠などのときには特別な栄養素を多くとる必要があります。偏りがあると栄養不足になり、疾病を引き起こしやすくなります。反対に、栄養摂取が過剰になると脂肪として体内に蓄積し肥満となり、動脈硬化症や糖尿病の原因になります。

日本人の標準的な栄養は表1の通りです。(1995年、厚生省1993年国民栄養調査)

表1

i)飢餓

カロリーが長期間にわたって不足すると体内の貯蔵グリコーゲンや脂肪が消費され、構造素材である蛋白質もカロリー源として使われ燃焼し、体重のみならず肝臓・腎臓・心臓などの重量も減ります。脳は最後まで減りません。これを飢餓と言います。水を飲まないと約3週間で死に至りますが、水を摂取していると6〇日程度まで生存できると言われています。栄養の一部に不足があると不足する栄養物の種類により特定の障害が起こります。

ii)蛋白質の不足

蛋白質の不足は血祭蛋白質の低下、特にアルブミン量の不足に伴い浸透圧が下がり浮腫(飢餓浮腫)を引き起こします。細胞は萎縮し機能が衰えます。小腸では上皮の吸収機能が衰え、肝細胞の解毒機能は低下し、貧血がおこり白血球の防御力も下がります。

iii)脂質の不足

脂肪酸のグリセリンエステルの中には、リノール酸・リノレン酸・アラキドン酸など生体活動に不可欠なものが含まれています。脂質は、ビタミンA-D-E-Kなどの溶媒としても必要です。コレステロールなどは細胞膜に欠くことができない成分で、ステロイドホルモン(性ホルモン・副腎皮質ホルモン)の素材としても重要です。

栄養素としての脂質が吸収されない状態、例えば閉塞性黄痘による胆汁酸の不足などでは多くの病的状態の原因となります。

iv)糖質の不足

炭水化物をエネルギーの元で、これが不足すると力がでません。非吸収性の炭水化物である植物線維が不足すると大腸癌にかかりやすくなります。穀物や野菜の線推は腸の運動を促進し腸内容の排泄をよくします。

v)ビタミンの不足

ビタミンA欠乏症は、夜盲症・角膜乾燥症・粘膜の扁平上皮化生などを引き起こします。ビタミンAは緑黄野菜に多く含まれるプロビタミンA、すなわちカロテンから誘導され上皮組織の機能維持に大きな働きをしています。粘膜癌に対する予防効果があります。

ビタミンB1欠乏症は、脚気を引き起こします。

ビタミンB2欠乏症は、口角炎・口唇炎・口腔粘膜の萎縮などを引き起こします。

ビタミンB6欠乏症は、皮膚口内炎・舌炎・神経精神症状などを引き起こします。

ビタミンB12欠乏’症は、悪性貧血及びそれに伴う舌炎・胃炎・脊髄症状を引き起こします。

ビタミンC欠乏症は、壊血病(皮下・歯肉出血、骨形成不全)を引き起こします。

ビタミンD欠乏症は、骨変化、子供ではくる病、成人では骨軟化症(骨梁の脱灰・吸収)を引き起こします。逆に、ビタミンD過剰症は、医薬品の過剰投与により、骨カルシウムの動員、血中カルシウム値の増加、動脈・心筋・腎臓・肺などにカルシウムの沈着を引き起こします。

ビタミンE欠乏症は、生体の過酸化物生成防止作用があり、欠乏によりセロイド色素が胃腸管平滑筋へ沈着します。

ビタミンK欠乏症は、肝臓におけるプロトロンビン形成にかかわっているので、欠乏により出血傾向が生します。新生児では副腎、頭島内に出血し死に至ります。

vi)無機塩類の不足

体内には、ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウム・鉄などがあり、微量ですが不可欠のコバルト・銅があります。これらはいずれも細胞の内外にあり、細胞の構造と機能の維持に重要な働きをしています。

ナトリウムはNaClのかたちで細胞外に多く、組織液や血液の浸透圧と血量をコントロールしています。

カリウムは細胞内に多く、細胞の生理機能を調整します。

ナトリウムは、過剰になると高血圧や浮腫の原因となりますが、不足すると心停止をおこすことカミあります。

カルシウムの不足は、骨や歯の発育不全や骨軟化症を引き起こします。カルシウムの代謝には、上皮小体・ビタミンD・腎臓などが深くかかわっていて、不足するとテタニー(発作)を起こします。

鉄の不足は、鉄欠乏性貧血を起こし、過剰になると血鉄症やへモクロマ’ーシスの原因

になります。

銅の過剰はウィルソン病にかかりやすくなります。ウィルソン病とは銅代謝異常のため血中セルロプラスミンの減少、尿中への銅排泄増加、肝臓や脳などへの銅沈着が行われ、そのため肝硬変などを引き起こします。

vii)水

水による症候には脱水と水中毒があります。

脱水は、昏睡状態や食道狭窄により水の供給や摂取が不可能な場合、あるいは過剰な発汗や下痢、不適切な輸液などが原因としてあげられます。皮膚・粘膜の乾燥、高比重の乏尿、高ナトリウム血症、血清浸透圧の上昇、血清蛋白やヘモグロビン値上昇、さらに細胞の内から外へ水が移動し細胞内脱水が起こり、神経症状があらわれます。

水中毒は、輸液などによる水分の過剰投与、腎不全や手術後などで水分排泄に障害がある場合に起こり、血清浸透圧の低下・低ナトリウム血症・ヘモグロビンや血清蛋白の低下がみられ、頭痛・吐気・脱力・けいれん・錯乱・昏睡などに陥いります。

②物理的病因作用

i)機械的病因作用

外から急激に大きな力が加えられると、組織や構造に破壊や歪みを起こします。出血も起こります。例えば、事故やケガにより、骨に亀裂ないし離断がおこり、筋や関節、血管などの過伸展により出血を伴う機能障害があらわれます。

軽い圧迫が繰り返されるだけでも骨に萎縮が起こります。大動脈瘡による脊椎骨の圧迫がそうです。また結石滞留で粘膜欠損が起こり、カテーテル挿入により圧迫部位粘膜にびらんないし潰瘍が生ずることがあります。

ii)温度的病因作用

高温多湿の環境で長時間の作業を続けると熱射病になります。これは皮膚や肺からの熱放散が困難なために体温が上昇し、40で以上の高熱とともに意識がなくなります。夏季の直射日光による日射病も同じ現象です。

局所へ50°C以上の高温を2〜3時間与えると、蛋白凝固が起こり組織が壊死します。さらに高温では炭化に至り、高度の熱傷となります。熱傷は次の表2に示すように4期に分けられます。全身体表面の20%以上が熱傷におかされると生命が危険です。

表2

人の体温は36~37°C前後に保たれていますが、全身が長時間25で以下にさらされると、低温限界を過ぎ、心肺活動が低下し酸素欠乏のため意識が失われ、最後には凍死に至ります。

局所性に低温が働いた場合は、次の表3に示すように凍傷が起こります。

表3

iii)放射性エネルギーの病因作用

放射性エネルギーとしてはX線やア線の電磁放射線と、a線・6線・電子線・中性子線・陽子線・重陽子線などの粒子線があります。一次作用として、細胞の分子に電子を放出させ、電離(イオン化)します。その後に電子を失った分子は高い化学的活性を与えられ、これらの電離された分子が次々に反応をおこして二次的にさまざまの生物学的変化を来すことになります。放射線に照射された細胞はなんらかの障害を受け、極端な場合は死に至ります。

骨髄・リンパ節・生殖腺などは強い障害を受けやすく、神経・肝臓・腎臓・筋などは比較的被害が少ないようです。高度の貧血・免疫不全・生殖不全などが代表的な放射線障害で、原爆症の亜急性期には、これらの重篤な症状によって多数の人命が奪われました。

そのほか、後発的な変化として各種の悪性腫瘍、特に白血病、悪性リンパ腫などの発生があります。

iv)光線の病因作用

太陽光線は、可視光線・紫外線・赤外線などからなります。このうち障害作用のあるのは紫外線です。紫外線は皮膚の紅斑・落屑・色素沈着をもたらします。紫外線により表皮細胞核のDNAは軽度の障害を受けますが、通常は修復機能により修復されます。色素性乾皮症の人は修復機能に欠陥があり、皮膚障害から皮膚癌に至る障害が起きる危険性があります。

v)音波の病因作用

通常の可聴音でも強さと持続時間が一定限度を超えると聴力障害が起こります。建築土木などでの鎭打ち作業は、聴力障害が起こりやすく職業病として知られています。超音波の振動は低振動の音波の影響でも障害が起こります。

vi)電気の病因作用

落雷など直流電流による感電では皮膚に電撃紋を生します。経路の抵抗で熱を生じ電気分解が行われ、心臓’や呼吸中枢麻痺で死亡します。高圧交流電流にも類似の作用があります。直流よりは交流のほうが生体に与える影響は大きく100V程度でも心停止や呼吸停止の起こることがありますG

vii)気圧の病因作用

河川の橋梁や海底トンネル工事などでは潜函の中の気圧を上げ、水を排出し、その中で作業をしますが、潜函の中で働いていた人が浮上して急に1気圧に戻されると、血中または細胞に溶けこんでいた空気、特に窒素が気泡となり、毛細血管を閉塞します。これにより、中枢神経が冒されば死亡に至ります。潜函病と呼ばれます。窒素は脂肪組織によ・く溶け、骨髄の脂肪組織も気泡によって破壊され、生じた脂肪栓塞も死亡原因になると言われています。

山岳部における持続的な低気圧や低酸素状態(およそ5,000m以上)では、酸素欠乏にょる全身症状(頭痛・めまい・筋力・思考力低下)が起こります。これを高山病と呼びます。この環境に順応すれば、代償的に多血症や骨髄細胞増殖などが起こります。

③化学的病因作用

毒物の生体に与える障害として、2つのケースがあります。1つは接触による障害で、もう1つは吸飲し血中に吸収されて後に起こる障害です。両方に関わる場合もあります。いずれにしても生体反応として毒物の接触に対しては局所的変化が、吸収後作用する毒物に対しては中毒性の全身的な変化が起こります。医療における薬剤の副作用や、環境汚染によるものもあります。

i)接触による障害

接触による障害は腐蝕毒として扱われます。腐食毒には、塩酸・硫酸・硝酸などの酸類と、昇汞(しょうこう)などの蛋白質を凝固する物質、苛性ソーダや苛性力リのように蛋白質を溶かす物質などがあります。

ii)吸飲による障害

吸飲による障害は、気体あるいは腐食毒が発生する気体などを吸い込んだ場合に起こります。ホルマリンガス、亜硫酸ガス、塩素ガスなどは、気管や気管支粘膜の水分に溶けて障害を与えます。戦争中に毒ガスとしてつくられたマスタードガス(イペリット)は経気道的に入り、強い炎症を起こし、喘息の様な発作を起こし死に至らせます。

iii)医原病

医療は疾患を治療するために行われますが、薬剤とか放射線などは多少なりとも生体に対して毒性あるいは悪影響があると言っても過言ではありません。例えば、放射線や抗癌剤は、腫瘍細胞を死滅させると同時に造血や生殖に障害を与えます。;薬剤などの副作用で起こる疾患を医原病と言います。

iv)環境汚染の影響

a)水銀

熊本県で起こった水俣病は日本における環境汚染の代名詞となっています。これは、水銀による汚染で、その規模の大きさ、原因の特異性などで社会的大問題となり、解決に長期間を要しました。水俣病は、水俣湾で採れる魚介類を持続的に摂取したことにより発症した中毒性神経系の疾患です。原因は、工場排水中の無機水銀が垂れ流しされ、それを摂取した魚介類にアルキル化水銀を主とする有機水銀が含まれていたのです。

b)カドミウム

富山県神通川流域に発生した“イタイイタイ病”は、カドミウムによる慢性中毒症状です。カドミウムが腎尿細管に作用し、カルシウムや燐の再吸収を妨げ、骨からのカルシウム脱出による骨軟化症となり、その結果おこった病的骨折によって強,い痛みを訴えること・から名前が付けられました。

c)ヒ素

ヒ素塩や酸化物を吸入したり飲み込むと中毒症状が起こります。塗料・陶器・ガラス・冶金・蓄電池・殺虫剤・皮革などの製造作業工程にみられます。急性中毒症状は、経口摂取・吸入・経皮経由などで起こります。

経口摂取では腹痛・嘔吐・下痢・末梢神経炎・皮膚炎などが起こります。吸入では、急性肺水腫を起こします。皮膚や粘膜経由では湿疹・丘疹・紅疹や潰瘍を起こします。

慢性中毒では、黒皮症・脱毛・皮膚癌などのほか、消化器症状や知覚異常、脱力などの末梢神経症状がみられ、肝臓や循環器の症状を伴うこともあります。

ヒ化水素では溶血性黄疸が起こります。1955年、粉ミルクの乳質安定剤に用いられていた第二燐酸ソーダに亜砒酸が5%混入していたため、患者総数1万名以上、死者130人にのぼった粉ミルク事件では、現在でもなお後遺症が80%近くの人に残っているのです。

d)鉛

鉛の中毒は、急性と慢性があります。主に産業界でみられ、鉛を扱う工場の高温処理を行う作業行程で発生しやすくなります。多くは慢性中毒で、消化器症状・貧血・神経症状を引き起こします。貧血は一般に中等度ですが、塩基性斑点を有する赤血球が増加します。同時にヘム代謝異常がみられます。消化器症状では鉛仙痛が知られ、末梢神経麻痺もあらわれます〇橈骨神経麻痺によるwristdroppingは有名です。

公衆衛生上、オクタン価を上げるためにガソリンに添加されていた4エチル鉛は近年禁止されました。

e)クロム

クロムの中でも、6価クロムが問題になり、急性中毒としては腎・肝障害や急性肺炎がみられます。人の致死量は重クロム酸カリウムの場合、経口で3gとされています。慢性中毒としては職業性肺癌や鼻中隔穿孔を引き起こします。アレルギーおよび刺激性皮膚炎なども起こります。農薬に使われたパラチオン(有機燐)、除虫剤に含まれるDDTやBHC(有機塩素系)の薬物なども生体に有害で、特にパラチオンは神経を冒す毒です。

カネミ油中毒事件の原因であるPCBは、その蓄積による皮膚や肝障害が知られています。

工業コンビナートのある地域では、工場の排煙による喘息として、四日市喘息があります。

④生物的病因作用

i)病原微生物

病原微生物には、細菌・リケッチア・ウィルス・スピロヘータ・真菌・原虫などがあ・ります。

a)リケッチア

形状は、長さ0.3〜0.5ミクロン、幅0.3ミクロ・位で、球菌状・双球菌状・杆状など種々の形があります。細胞壁があり、テトラサイクリン系に感受性のある点で細菌類に近く、生活細胞内でのみ繁殖し性質はウィルスに似ています。シラミ・ダニ・ノミなどの節足動物を媒介にして人に感染します。発疹チフス・ツツガ虫病・ロッキー山発疹熱などを感染させます。

b)ウィルス

リケッチアより小さく、0.2〜0.3ミクロンの大きさで、構造は単純で核酸の芯と蛋白の殻とから成っています。核酸はRNAかDNAのいずれかー種だけを有し、自己代謝の酵素がなく新陳代謝も行いません。ですから、生活細胞内においてのみ増殖し、被感染細胞内にしばしば封入体の形で見られます。麻疹、日本脳炎、インフルエンザなどがあります。

c)スピロヘータ

らせん状の形を持つ特殊な細菌で、長さ10~15ミクロンです。梅毒のトレポネーマ、黄疸出血性レプトスビラ、回帰熱病原体などの病原体です。

d)真菌

カビの一種で、皮膚真菌症と内臓真菌症などの感染症があります。アクチノマイコーシス、アスペルギルス感染症、クリプトコッカス症、カンジダ症などがあります。

e)原虫

原生動物に属し、単細胞から成り種類がたくさんあります。分裂、胞子形成により増殖します。それらのうち病原性を有するものがあり伝染性疾患を引き起こします。赤痢アメーバ、膛トリコモナス、マラリア、アフリカ睡眠病のトリバノゾーマ、カラアザール病原体などがあります。

ii)病原体と感染症

病原微生物が生体の防御機構を打ち破って生体内に侵入、定着、増殖することを感染と言います。感染によって疾病がおこってきた場合を感染症と呼びます。感染と発病とは必ずしも一致しません。感染があるにかかわらず発病しない場合を不顕性感染または無症候性感染と言います。これは、生体の抵抗力が強く感染を克服した場合です。しかし免疫能の未熱な胎児や幼児に肝炎ウィルス(HV-B)が感染し症状の無いままウィルス保有者になることもあります。

感染症とは簡単に言うと、病原体と生体である宿主との「せめぎ合い」です。病原体の側からすると、自身が繁殖し、その種を維持するための場所が宿主であり、宿主の抵抗が強ければそれを破る手段を展開し、局所に炎症という病変が生じます。いわゆる、感染症とは、病原体と宿主が生存競争をしているのです。ですから、病原体にとっては、宿主が死んでしまうのは住み家が無くなるので逆に困るわけです。したがって病原体の中には、水痘ウィルスやヘルペスウィルスのように宿主の細胞のなかに長く住み着き(潜在し)、機会をみて増殖するものもあります。また、腸内細菌のように共生状態をずっと続けているものもあります。しかし、コレラ菌やペスト菌のように爆発的に増殖して宿主を死亡させ、利用すべき場所を失ってしまうなど危険な病原体もあります。

病原体による感染は、侵入、宿主内での定着、毒性の発揮の過程を通ります。それに対して宿主は抵抗するわけです。

a)侵入

侵入門戸には、皮膚・粘膜(気道・消化管・泌尿器)・肺などがあります。侵入門戸に到達する感染経路には、直接感染と間接感染があります。間接とは感染源と宿主の間に第三者が介在する場合です。媒介物が生物としては昆虫または節足動物が主で、これを媒介体と呼びます。無生物による媒介では、水・牛乳・その他の食品や空気・土壌などがあります。

b)定着

定着部位はそれぞれの病原体で異なります。例えば、ブドウ球菌やレンサ球菌などの化膿菌などは所を選ばず侵入し、局所に感染巣をつくります。赤痢菌やコレラ菌は腸管に定着します。向神経性ウィルスは神経組織に定着します。

c)毒性

発病するかどうかは病原体の毒力と宿主の抵抗性との力関係により複雑です。毒素には、菌体外毒素(エキソトキシン)と菌体内毒素(エンドトキシン)があります。

菌体外毒素では、破傷風菌やジフテリア菌などがあり、侵入した局所の皮膚や粘膜で増殖し、局所の組織障害は少ないにもかかわらず、その局所に留まっている間に菌体外に毒素を産生し、重い神経症や筋症状を引き起こします。また、コレラ菌・腸炎ビブリオ菌・ボツリヌス菌などは全身に中毒症状を引き起こします。

菌体内毒素は通常細胞膜に含まれるリボ多膽体で、菌体が融解したあとで遊離してくるもので、一般に菌体外毒素よりも毒性が弱いですが、発熱の原因になります。

d)抵抗

感染に対する抵抗力を決めるのは、宿主の免疫力です。抵抗力は、身体の構造や機能まで含めた総合力です。

気管支壁は、粘液と分泌型免疫グロブリンで保護されていて、大きな異物は線毛上皮の線毛運動で外へ排除されます。

皮膚は、強い機械的障壁となっていて、皮脂腺の分泌物中には殺菌力のある脂肪酸を含んでいます。

その他、器官分泌物には、乳酸・塩酸・リゾチームなどが含まれていて、インターフェロン・多核白血球・大食細胞・NK細胞などの働きで微生物の増殖を抑えています。

感染というストレスに対し、視床下部T下垂体T副腎皮質が刺激され、副腎皮質ホルモンの分泌を促し、肝臓の解毒機能を亢進したり白血球の機能を維持亢進させます。

iii)動物性寄生体

動物性寄生体(寄生虫)には、扁形動物では、条虫(サナダムシ)、吸虫(ジストマや日本住血吸虫)、線虫(回虫・焼虫・東洋毛線虫)があり、節足動物では、蚊、ノミ、シラミなどがあります。

節足動物は表皮から血管を刺入し血液を吸います。扁形動物のあるものは、消化管粘膜を貫通して腹腔に出て肺に入ったり、門脈系へ移行して肝臓に住みついたりしますが、他のものは消化管壁に固着して血液を吸い内腔に住み着きます。いずれにしても、組織の機械的損傷のほかに分泌する代謝物によって炎症が起こります。腸管内の扁形動物による継続的な吸血作用により、慢性的な貧血や低栄養症を起こします。

(4)免疫不全

①日和見感染

免疫不全状態になると、今まで無毒だった腸内細菌や病原性の弱いカビ・ウィルスなどが感染し病原性を発揮するようになります。これを日和見感染と呼びます。免疫力が低下すると、抗生物質では効きめがなく、弱い病原性の生物までが生体内にはびこってきて、体内の代謝系を冒します。

免疫不全状態には、先天的に免疫機能に欠陥のある場合と、強力な抗癌剤やステロイド剤・放射線治療により後天的に免疫不全状態に陥る場合とがあります。

②後天性免疫不全症候群(AIDS:Acquired Immune Deficiency Syndrome)

AIDS(エイズ)とほ、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)によって起こる死亡率の高い病気で、1981年に米国で最初に報告されました。原因ウィルスは、レトロウィルスといわれるRNAを遺伝子としてもつウィルスで、現在では、HIV(Human Immunodeficiency Virus)と呼ばれます。

HIVは、細胞内に侵入した後に増殖し、逆転写酵素を使ってRNA-DNAと変換し、プロウィルスDNAとして細胞核内の染色体に組み込まれます。一度感染すると、感染ウィルスを生涯保有することになります。

感染は、性交・汚染血の輸血・汚染された血液製剤の使用・汚染注射器の使用・母児感染などによります。健康な皮膚間の接触.(握手など)・吸血性昆虫・食物・食器などから感染しません。

生体の防御機構の中心であるリンパ球が冒されるので、感染や癌に対する抵抗力がいちじるしく低下します。

3 再生

(1)再生とは

再生とは、組織の欠損が増生した同じ種類の組織で補われ、元の状態に戻る現象を言います。生体は、生理的に絶えず古い細胞は老化・死滅し、未分化な芽細胞が分化・増殖してこれを補うとように、細胞単位で絶えず新陳代謝が行われています。この代謝は、表皮・消化管上皮などの固着した被覆細胞でも、骨髄や血球のような遊離細胞、造精子細胞などで常に行われています。これを生理的再生と言います。基になる未分化芽細胞がない神経細胞や骨格筋・心筋細胞には再生が起こりません。

(2)再生の分類

①未分化芽細胞

未分化芽細胞の増殖による生理的再生は、表皮・粘膜上皮・骨髄・睾丸などでみられます。表皮や粘膜上皮では基底部にある芽細胞の増殖により再生があり、骨髄や睾丸では骨髄芽球と精租細胞の増殖分化により再生のサイクルが繰り返されています。

②新生芽組織

新生芽組織の増殖による再生は、間質組織すなわち結合組織や軟骨・骨組織の再生はそれぞれの芽細胞である線維芽細胞・骨芽細胞・軟骨芽細胞からなる芽組織が増殖し、それぞれの組織に特有な基質が形成され再生が行われます。血管の再生は毛細管で行われます。

③欠損部の延長

末梢神経では、切断端から神経線維が延長して再生が行われます。まれに、切断端から過剰再生が起こり毛毯状の切断神経腫を形成することがあります。

心筋とか脳では、心筋細胞や神経細胞に再生能力がないので、欠損部は結合組織または神経膠組織が埋めて行きます。

4 化生

(1)化生とは

化生とは、すでに分化成熟を遂げた組織や細胞が、性質や形の異なる別の細胞組織に変化することを言います。例えば、気管支や子宮頸部の粘膜円柱上皮は慢性炎症により扁平上皮に化生します。また、角化の起こらない尿管系や膀胱の移行上皮が、結石や慢性炎症で角化を伴う扁平上皮に変わります。さらに、肺線維化巣では、肺胞上皮がさいころ状上皮になり化生します。

化生は、局所の条件の変化に対する一種の適応現象です。気管支で言えば、化学的刺激

や炎症によって上皮の剥離と再生が繰り返されるうちに、円柱上皮とその下部にある基底細胞が重層扁平上皮になります。これは円柱上皮が剥脱し、基底細胞が円柱上皮になる正常過程が変化し、扁平上皮に変わったもので、このほうが病的刺激に対し抵抗力を増すわけです。尿路系にみられる移行上皮から扁平上皮への化生も同じです。

しかし、化生の中にはある種の遺伝子の形質変換が起こることもあり、このような形質転換は、腫瘍発生の可能性も含んでいると考えられます。

(2)化生の分類

気管支粘膜は、表層円柱上皮の欠損を補うため、芽細胞である基底細胞が増殖分化する際に扁平上皮に化生したので、再生を前提にした化生と言えます。これを間接化生と言います。

それに対し結合組織が直接骨組織に化生する場合があります。例えば、病巣に石灰沈着が起こり、局所の線維細胞が骨芽細胞に変わり、骨基質をつくり骨化します。これは、肋膜の肺胞や粥状動脈硬化症や古い結核の癒痕病巣などに見られます。いわゆる、再生を伴わずに細胞が直接に化生するので、直接化生と言います。

化生は、あくまで基の組織や細胞の潜在的分化能力の枠をこえることはなく、扁平上皮が線維細胞になったり、骨細胞が円柱上皮に変わったりすることはありません。

5 移植

(1)移植とは

移植とは、提供者の体の一部を、本人または他の受容者に植えることを言います。機能を失った臓器の代わりに、他の個体からとった臓器をもって移し替えて代行させることです。

(2)移植の分類

移植には、自己移植、同種移植(同系移植・異系移植)、異種移植があります。

自己移植は、同じ個体内での移植で、拒絶反応はありません。

同種移植のうちの同系移植は、ドナー(角膜・臓器・骨髄の移植で、提供する側の人)とレシピエント(提供を受ける患者)の遺伝子が同一の場合で、一卵性双生児がそれにあたります。異系移植は、遺伝的に異なるドナーとレシピエント間の移植で、拒絶反応が起こる場合があります。

異種移植は、動物の種類の異なる間での移植で、拒絶反応がただちに起こり生着しません。

6 創傷治癒

(1)創傷治癒

創傷とはキズのことで、創傷治癒は一種の組織の補修現象です。損傷が大きいと元の形への再生復元がむずかしく、損傷部位を肉芽組織でカバーし、その後にキズが進行しないよう療痕化することにより傷痕(きずあと)を残したまま修復は完了します。

例えば、表皮に外傷や熱傷による大きな糜爛(びらん)または潰瘍ができた場合、1週間も経っと創傷面に肉のような柔かく赤い顆粒状の出血しやすい組織ができて来ます9この新しくできた軟弱な組織が肉芽組織です。赤い顆粒状の組織とは線維芽細胞の増殖でできたもので、膠原線維が少なく水分の多い基質からなり、壊死に陥った組織や細胞破片や細菌などを貪食し清掃役を果しています。この組織は、毛細血管が豊富で血液の供給が盛んであり、組織の増殖や清掃活動が活発になればなるほど傷の治りも早いことになります。

柔かいひきしまった血色のいい肉芽組織は、”良い肉芽”で、早期の傷の治癒を予見できます。逆に、血色に乏しく浮腫状で混濁した感じの肉芽は“悪い肉芽”で、傷はなかなか治りません。全身の健康状態が悪かったり、栄養不良だったり、放射線障害で毛細血管が障害を受けたりしていると、肉芽組織の血液循環は不充分で線維芽細胞の増殖も不良のため、傷が接着せずに開いてしまいます。また健康であっても細菌感染が加わったりすると悪い肉芽ができ治癒が遅れます。

(2)骨折の治癒

骨折すると、骨折端を中心にして血管が切れ、出血して血腫ができます。やがて血腫が吸収され、折れた骨の間に一腫の肉芽組織がつくられ骨を繋ぎ合わせます。この肉芽組織は創傷とは異なり、線維芽細胞の代わりに骨芽細胞が増殖し、膠原線推とともにリン酸カルシウムの豊富な基質成分を盛んに作ります。この肉芽組織を仮骨と言います。

このように、骨芽細胞から骨基質ができ、石灰が沈着して骨組織が出来上がります。しかし、この骨組織を破壊する破骨細胞が仮骨形成に影響を与えます。破骨細胞は、無差別につくられていく骨を部分的に壊し削りながら、支持組織として力学的に合理性をもった骨梁を構築してくれます。

再生途上にできる未完成な骨組織(類骨)が骨組織へと完成するために、ある時期から負荷が必要になります。それは、骨に適当な力が加わることにより骨は刺激を受け形成され、骨が完成するからです。すなわち、骨折の治癒に、いつまでも骨を固定しておく保存療法だけでなく、ある時期からリハビリなど適当な運動が必要となります。しかし、当初、固定が不充分で安静を保てないと、骨折端が動き、骨組繊による接合形成が進まず、骨折部位に偽関節ができことがあります。

(3)異物の処理

①異物の処理

体外から組織内に侵入した異物、例えば、金属粉・縫合糸・油蟻製剤・寄生虫卵などや、体内で死滅した細胞組織・血栓・炎症などで異物化したものは、生体の反応機構により、排除・器質化・被包などの処理をされます。

②排除

異物の性質により、融解されるものや場所によっては外界へ排除されるものがあります。

大葉性肺炎(肺炎双球菌性肺炎)では、大量の線維素塊が炎症浸出物として肺胞腔を満たし(線維素性肺炎)ますが、その後、白血球の崩壊によって遊離する蛋白分解酵素が線維素を融解し、痰(たん)として体外に排出されます。

肺胞内に入った塵埃(空気中のちり)は、肺胞内の貪食細胞に貪食され、気道を経て喀痰されるか、リンパ節へ移動じ沈着し排除されます。

赤血球や白血球の死んだものは、大貪食細胞(マクロファージ)によって貪食され、特に赤血球はヘモグロビンがヘモジデリンに分解され、その中のフェリチンは再び体内の鉄代謝経路に入ります。小さな壊死組織なども白血球の融解酵素の作用を受けた後、マクロファージに貪食され排除されます。

③器質化

異物を排除できない場合、異物の回りに肉芽組織が作られ、異物を取り込み処理します。肉芽組織は創傷治癒と同じく癒痕(キズあと)を残します。この過程を器質化と言います。気質化とは、異物が自分自身の組織である肉芽組織から療痕内’へ取り込まれ、隔離し、異物があったところを自己の器官の一部にしてしまうことです。

例えば、体表面に壊死組織ができた場合、壊死と健康組織の間に肉芽組織が出来、分界線が形成されます。分界線を境にして壞死組織は排除され、潰瘍ができます。その後、潰瘍は肉芽で埋められ、表層上皮が再生して治癒します。このような潰瘍跡の癒痕も一種の器質化です。

血栓も異物として器質化されます。血栓の付着部から毛細血管が入り、血栓全体を肉芽組織化し、器質化していきます。

組織や器官の器質化は、本来の構造や機能を犠牲にして形成されるので機能面で低下します。

④被包

被包とは、異物の排除や気質化ができなかった場合に、異物の周囲に生じた肉芽が異物を包囲し、線維性に包み込むことを言います。例えば、絹糸のような縫合糸とか珪酸塩、石綿、トロトラスト、寄生虫などに対してはマクロファージのほか、それらが細胞融合してできた多数の多核異物巨細胞が出現して異物を貪食する一方、線推芽細胞による線維形成が行われ、結節状に発達した異物肉芽腫ができます。肉芽腫は、腫瘍性ではなく炎症性のものです。

体表面から深いところにある腫瘍は、簡単に吸収したり排除できないので、その周りに肉芽組織ができて腫瘍を被包化します。それは、長い間に石灰化することもあります。

7 炎症

(1)炎症とは

炎症とは、侵入してきた微生物(細菌やウィルス)に対する反応であり、血管・液性および細胞反応などからなります。炎症は、侵入した微生物洗い流し、貪食し、壊れた組織や細菌を清掃し、修復する一連の過程です。これは、生体が微生物に満ちた環境の中で生き抜くために、長い時間をかけて形成された防衛手段で、遺伝子によって統御された反応形式です。炎症には、発赤・発熱・腫脹・疼痛・機能障害が伴います。

急性炎症が長びくと、免疫反応が加わり防御はさらに強化されます。免疫は、防衛手段として進化し、洗練されたもので、脊椎動物に備わったものです。免疫機能で最も重要な点は記憶の存在で、二度目からの同じ侵入に対してより強く反応し、これを効率よく排除します。それによって、二度と同じ病気にかからなくなり、病から免がれることから免疫と言われるようになりました。

(2)障害因子

炎症は、障害因子の作用により細胞組織が障害されると、それに対する生体反応としてあらわれます。障害因子として、病原微生物の感染、物理的刺激、化学的刺激、アレルギーがあります。・

病原微生物の感染は、炎症の原因で最も多く、ウィルス・細菌・カビ・原虫・寄生虫などが因子となり、それぞれの性質により特徴ある変化や病状を引き起こします。

物理的刺激は、熱傷・切傷・裂傷などの機械的なもの、放射線・紫外線による皮膚炎など力ミあります。

化学的刺激は、酸・アルカリ・化学スモッグによるオキシダントなどがあります。

アレルギーは、生体を守るべき免疫反応が、反対に障害的に働くために起こる炎症反応で、気管支喘息、じんま疹、アレルギー性鼻炎、リウマチ、腎炎などがあります。

炎症は、種々の原因によって起き、それによって炎症反応にも強さの差があります。

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